ちょっと前の話になりますが、5月24日のBS11デジタル「本格政策対談 堂々たる日本」が、医療問題がテーマだったので、途中からですが見てました。
松田喬和・
毎日新聞論説委員、与謝野馨・財務・金融・経済財政相という顔ぶれで医療を語るというので、
本気で聞いていいものやら迷いましたが、番組中、ちょっと気になる内容のフリップボードが出て来たので、今日はそれをネタにエントリーを書いてみます。
元データは厚生労働省老健局の資料らしいのですが、厚労省のHPからは見つけられなかったので、
全国社会保険協会連合会の
「社会保険介護老人保健施設の今後の在り方検討会 報告書」に引用されていたのを孫引きします。
これが、その資料。
「今後の看取りの場は?」
※他文献からの引用のため転載不可このグラフは、年間死亡者数が現在の約100万人から
2030年に約160万人超に増加すると予測される中、どういう看取り場所(=死に場所)でどれくらいの国民が死を迎えるかを厚労省老健局が推計した結果です。2030年に、
89万人は医療機関で死に、
9万人が介護施設(老健・老人ホーム)、
20万人が自宅と推計され、それらのキャパシティを越えはじき出される
「その他」が47万人に達するという内容です。
死亡数が病院・介護施設・自宅の収容能力を超え、47万人が、その他のいずこかで死を迎えることになるというのは、ちょっと怖い想像です。本当でしょうか?
そのまま鵜呑みにするのもなんなので、遊び半分ですが、自分なりに試算してみました。
以前のエントリーで使ったグラフですが、たしかに2030年代をピークに、今後死亡数は増加するとの予測があります。
「出生数・死亡数の推移(1900〜2105年)」
死期が近いかたを受け入れる施設に十分余裕があるのなら問題はないのですが、逆に余力がほとんどなければ、
往き行き場所が不足するだろう、くらいのイメージはなんとなく湧きます。
さて、では先の老健局の推計グラフの検証(みたいなもの)です。
この厚労省の推計は、いくつかの仮定に基づいています。
- 医療機関の病床数の増加が無い。
- 介護施設(老健・老人ホーム)は、2倍になる。
- 自宅死亡は、1.5倍になる。
まず、これらについて考えてみます。
1.「医療機関の病床数の増加が無い。」厚労省の「病床は増やさない」決意表明ですね。(笑)
推計では、医療機関での死亡数が、
2005年時点の年間約89万人のまま、その後も続くとされています。
しかし、2006年の医療制度改革関連法案で、厚労省は、療養病床を2012年度末までに18万床削減するという方針を打ち出し、国会も承認しています。(その後16万床に修正)
また、それ以前から病床数は減少傾向が続いていますし、2005年以降も減少が続いています。
こういった病床の継続的な減少については考慮されていないように思えます。
「一般および療養病床数の推移(平成13年〜21年)」
「総病床数の推移(平成17年1月〜21年1月)」

上のグラフに見られるような一貫した減少傾向は、長期・中期的な種々の因子の結果であろうと思われますので、一部を方針転換(医師数を増やすとか、病床削減方針を撤回するなど)をしたとしても、直ぐには変わらないと想像します。ましてや、病床削減、社会保障費抑制をやめる気配は伺えませんから、今後も減少すると考えるのが自然でしょう。
という訳で、病床減少を予想してみました。
「病床数(一般+療養)の推計」
このため、
- 今後、病床数は上記グラフの如く変化する。
- 「病床あたりの看取り数」は変わらない。※
という仮定を設けて、医療機関での看取り数を推計し直してみることにします。
※『「病床あたりの看取り数」は変わらない。』については、異論もあると思うので、最後に補足します。
2.「介護施設(老健・老人ホーム)は、2倍になる。」これについては、肯定も否定もする資料も見つからないので、このまま使うことにします。
老人ホームが介護施設に含まれていますが、多分、この老人ホームは、特養(特別養護老人ホーム)のことで、有料老人ホームや高齢者専用賃貸住宅、グルームホームは含まれないと思います。
なお、厚労省の推計では9万人となっていますが、厚生労働省人口動態調査データベース
「死亡の場所別にみた年次別死亡数」によると、2006年時で、老健8,162人、老人ホーム25,472人で、合計しても33,634人です。2倍にしても、67,268人と、9万人にはなりません。
推計値に他の資料を使った可能性も否定できませんが、今回は、約7万人を推計値として用います。
3.「自宅死亡は、1.5倍になる。」これも、肯定も否定もする資料も見つからないのでこのまま使うことにします。このあたりは、社会福祉政策や労働政策、住宅政策の影響を受けると思いますので、政府次第なので予測は難しいですね。
で、以上を勘案して計算してみた結果が、次のグラフです。
「看取り場所別の死亡数の推計」
厚労省の推計と比べ、医療機関での死亡が16万人減り、
「その他」での死亡が17万人増えて60万人になりました。うわー。
この「その他」ってどういう場所なんでしょうね。いろいろ想像してしまいますが。
介護情報ネットワーク協会のHPから引用します。
看取れる居住系施設の整備を 〜厚生労働省〜
厚労省老健局鈴木康裕老人保険課課長は22日、今後の高齢者数の増加に伴い、看取りの場所場少なくなるとの推移を示した上で、「今は有料老人ホームや高齢者専用賃貸住宅が少ないが、今後爆発的に増やさないと看取る場所がない」と述べた。今後は居住系の施設を増やすべきとし、療養病床の介護老人保健施設への転換の他、高専賃などの増加も必要との認識を示した。第3回国際医療福祉大学総研フォーラムで講演した。
鈴木課長は、2030年時点の看取りの場所に関する推計を紹介した。現在の高齢者の死亡場所は、自宅が1割程度に対し、病院や診療所が8割強となっているが、 30年時点で医療機関は病床数の増加なし、介護施設は現在の2倍を整備、自宅での死亡を1.5倍と設定すると、約165万人の死亡者のうち医療機関での死亡は約89万人、自宅約20万人、介護施設約9万人、その他約47万人となる。鈴木課長は「死に場所がない人は47万人いる。実際には老老世帯や高齢者単独世帯が増えると自宅での死亡が難しいため、恐らくこれ以上になるだろう」と介護難民が増加する事を予測した。
高齢者の住居状況に占める介護保険三施設の割合は3.2%と他の先進諸国と変わらないものの、リタイアメント・ハウジングなどの高齢者住宅は他国が4〜 5%程度あるのに対し日本は1.1%と少ないため、「高専賃など(の割合)をかなり膨らませて、5%程度にしなければならない」と療養病床を介護老人保健施設等に転換する他に高専賃などを増やしていく事が必要とした。
■ 医療機能強化の報酬は転換型老健に限定
社会保障審議会介護給付費分科会で現在、転換型老健の報酬体系を議論しているが、鈴木課長は「来年は介護報酬を一部改定するが、介護療養病床は老健プラスアルファに転換して(給付費が)減る分で充当する」として、現行の介護保険財政の範囲内での改定にとどめるとした。既存の介護老人保健施設が医療機能を強化した場合に転換型老健と同様の介護報酬を得られるかどうかは「2012年3月末には介護療養病床が制度としてなくなる。その人たちが不安なく移れるようにしたい」と、あくまでも転換型老健に限定する事を強調。「看取りなどについて、今の老健でもやっていると言う声は聞いている。そうした実態があれば、今後自治体などと議論して検討したい」と、療養病床再編までは検討しない方針を表した。
(2007年10月30日 介護情報ネットワーク協会)
はい、なんとなく見えてきましたね。
ザクっと要約すると、
- 病床は増やさない。
- 介護保険財政を喰う介護施設(老健・特養老人ホーム)は2倍増までに抑える。
- 全廃予定の介護療養病床は、転換型老健に移行してもよいが、その介護報酬は現在の介護財政内に収まるように抑える。
- 足りない分は、有料老人ホームと高齢者専用賃貸住宅(=自費で入居する施設)を爆発的に増やしていく。
ということで、
つまるところ、
「国が金を払う施設は増やしたくない」ので、
「自費で民間施設に入ってね」というのが本音なんでしょう。ああ、利用しなくても死ぬまで介護保険料はしっかり払ってね、いうのも忘れてはいけませんね。
ところで、有料老人ホームや高齢者専用賃貸住宅ですが、民間型施設ですから入居するにはそれなりの費用がかかります。
2008年の週刊東洋経済の特集「ニッポンの老後」記事によると、
月額基本使用料が11万円〜45万円です。
入居一時金も、0円の施設も一部にありますが、
多くは
数百万円〜数千万円(2億円というのもあるそうです)です。
誰でも入居できる、はずありませんよね。
また、有料老人ホームの中でも、介護付き有料老人ホームは
総量規制がかけられ、今後は大幅増は期待できないと聞きます。60万人の受け皿となるほど爆発的に増えるとは思えません。
では、どうなるのでしょう。
ひとつは、低料金の
無届け有料老人ホームが増えるだろうという想像。
劣悪な環境の介護施設や老人ホームは、今でも問題になっていますが、“他に受け皿が無い”から黙認されて増えて行くのかもしれません。年金や生活保護費で入所できるけど、その分、住環境は最低レベル。形を変えた姥捨て山でしょうか。
もうひとつは、ちょっといやな想像。
こういう時にしわ寄せが行くのは
弱い立場の所と相場が決まってます。
この場合、やっぱり
病院なんでしょうねえ。
大抵の人は、死ぬ前には、なにかしら病気になったり、食べれなくなって衰弱したりするので、病院に入院する可能性があります。で、入院したあと、介護施設に空きが無い、自宅へ戻っても自立できない、或は介護してくれる家族がいないので家へ帰れない、等々の理由で退院できず、そのまま病院でお看取り。
結局、他に受け皿がなければ、なし崩し的にそうなるんでしょう。
まあ、そうなりそうな受診者を事前に的確に判別し「受け入れ拒否」、病状が回復したら、家の事情など病院の知った事かと即「退院」させるような “Cool head, iron heart” な病院は、免れるかもしれませんが。
で、ここで最後に補足すると言いました
『「病床あたりの看取り数」は変わらない。』という仮定の再登場。長文ですが、これで本当に最後です。
計算し易くするため、この仮定で推計しましたが、「病床あたりの看取り数」が増える可能性はないでしょうか。(かなり自虐的な想像ですが)
次のグラフは、年間入院患者数と病床数の推移を表したものです。
「年間入院患者数および病床数の推移」
病床は減っているのに、入院患者は減るどころか増えてますね。
病床あたりでグラフ化すると、もっとはっきりします。
「1病床あたりの年間入院患者数の推移」
同じことが、看取り数と病床数についても見られます。
「医療機関での看取り数および病床数の推移」
「1病床あたりの年間看取り数の推移」
病床あたりの入院患者数、看取り数、いずれも増え続けてます。一体どういうカラクリでしょう?
医療者の皆さんはご存じですね。
これは、病院経営の効率化の成果と思われます。
例えば、入院期間の短縮(在院日数の短縮、とも言います)。
どういうことかというと、例として30日の入院治療が必要だった疾患があったとして、この入院期間を15日に短縮できれば、30日間に2人入院させれます。10日に短縮できれば3人です。病床が減っても、在院日数を短縮して期間あたりの入院数を増やすことで、入院数や看取り数を増やすことは可能です。
病院収益につながるので、勤務医をしていると病院側からのプレッシャーは相当なものです。
しかし、勤務医の立場から見ると、30日で1人の治療をしていたのが、30日で2人、3人となり、その分業務量も2倍、3倍に増えることになるので、勤務がどんどん辛くなります。入院増に合わせて勤務医も増員されればいいのですが、無い場合は、医療者の燃え尽き、注意力低下による医療事故、過労死などが問題になります。で、増員は大抵ありません。
まあ、そういうことで、病床あたりの看取り数が増える可能性はあります。在院日数をさらに短縮し、病床の回転をもっと高めることが出来れば、病院で看取れる数はもっと増やすことができるかもしれません。
ただし、そのためには、勤務医は今でも十分すぎるほど過酷ですが、それ以上に過酷な勤務に耐えなくてはならず、一方、後方病院的な役割も担っていた療養病床が減り転院も難しくなっているなど環境は悪化しています。非常に困難な選択でしょう。
絶対無理だと思います。
でも、この困難な選択を強いられるかもしれないのは
医療者で、政府でも患者でも報道メディアでもありませんし、痛みを受けるのも医療者だけなので、やっぱり病院にしわ寄せが行くんでしょうねえ。
そうなると、やっぱり医療崩壊・・・・かなあ。