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2008年4月30日

グラフで見る 医療費の将来推計

などと大層なタイトルですが、半分真面目、半分遊びです。

衆院山口2区補での自民・公明党の敗因として挙げられているせいでしょうか、「後期高齢者医療制度」はまだ世間の関心を惹いているようですね。今後の高齢者医療のありかたに直結するだけに、大いに議論されるのは結構なことだと思います。本当なら、2年前の国会で十分議論されていないといけなかったんでしょうけど。

ただ、報道を見聞きしていても、「保険証が届いていない」とか「保険料の徴収ミス」、「説明不足」等の報道が多くて、手続き論、というか、本丸じゃなくお堀のあたりで騒いでいる、という感じがします。
本当は、この制度の妥当性とか将来の影響(医療の質とか、高齢者の生活への影響とか、医療費の見通しとか)を知りたいのですが、そういう資料がなかなか見つかりません。(知ってたら、教えてください)

例えば、平成19年7月の「第5回医療費の将来見通しに関する検討会」の資料を見ても、前に見たような表ばかり(下表)で、「後期高齢者医療制度」導入で見込まれる効果はよくわかりません。


平成18年度の医療制度改革の結果、2025年の医療費が56兆円から48兆円に抑制される、という推計です。


しかし、厚労省(旧厚生省)は、平成6年には同じ口で、2025年の医療費は141兆円と言っているんですよね。
元データや算出方法が明示されていませんので見当もつきませんが、なんでこんなに推計値が大きくズレるのでしょうか? 変ですねえ。

というわけで、今回は、大胆にも医療費の推計にチャレンジしてみました。
といっても、医療統計は素人も同然だし資料もあまりないので、信頼性はあまりありません。


で、まず、基礎データから入ります。厚労省HPの「医療費の動向(年度版)」から、1992年〜2006年の医療費をグラフにしてみました。

「医療費の推移」

グラフを見ると、高齢者の医療費が全体を押し上げているように見えます。
2006年の医療費は32.4兆円で、70歳以上の高齢者は15.2兆円、69歳以下は17.2兆円。
同年の人口は、70歳以上の高齢者は約2690万6千人、69歳以下は約1億85万6千人なので、単純計算で、一人当たりの年間医療費は、ざっと、70歳以上の高齢者は56万5千円、69歳以下は17万円くらいになります。
高齢者は、一般の約3.3倍医療費がかる計算です。まあ、高齢になるほど、怪我や病気にかかり易いのですから、医療費がかかるのは当たり前ですし、保険制度は、その時に備えるためにある訳なので、驚くことではありませんが。

こういうグラフだと、「このままだと、高齢者の医療費で医療制度は維持できなくなりますよ〜。だから後期高齢者医療制度ですよ〜」と言われたら、納得してしまうかもしれません。でも、鵜呑みにしないで、まず計算してみましょう。


将来の医療費を推測するのにはいろんなパラメータがあると思いますが、今回は以下の3項目で計算してみました。
  1. 将来の人口:2005年から日本人口は減少に転じました。人が減れば医療費も減るでしょう。
  2. 将来の高齢化率:高齢者比率が高くなれば、医療費が増加しそうです。
  3. 一人当たりの医療費の増加率:人件費や物価上昇に伴う資材費の上昇、医療の高度化によるコスト上昇などは医療費を増加させる原因になるでしょう。
他にも考慮すべきパラメーターがあるでしょうが、頭が足らないので扱いません。


将来の人口推計はこのようです。出典は、国立社会保障・人口問題研究所「将来推計人口データベース」から。


「将来推計人口」


50年後には、70歳以上の高齢者比率が2割から6割に、人口は1億2千万から9千万になるようです。

このグラフの人口に、2006年の一人当たりの医療費(高齢者56万5千円、一般17万円)を基準値として、年ごとの医療費総額を推計してみたのが、次のグラフです。


「医療費の将来推計」


2030年までは人口減少より高齢化の影響が大きく、医療費は38兆円まで増加します。
その後は、人口減少の効果が出て、医療費は減少する、という結果になりました。

ただし、これは一人当たりの医療費が2006年と同じ、つまり増加率がゼロとした場合です。

医療費の増加率をいろいろ変えてみると、こんな結果になりました。


「医療費の将来推計」
(一般の増加率が年0.5%,高齢者の増加率が年1%の場合)


医療費のMaxは、2060年頃の58兆円で、その後は減少するようです。


「医療費の将来推計」
(一般の増加率が年0%,高齢者の増加率が年2%の場合)

医療費は上がりっ放しになりました。一般の医療費を抑えても、高齢者の医療費が年2%上昇すると駄目のようです。


「医療費の将来推計」
(一般の増加率が年1.4%,高齢者の増加率が年1.6%の場合)

どれくらいで、医療費が上げ止まるのか増加率を変えてみたところ、一般1.4%,高齢者1.6%だと、2095年に86兆円でプラトーになりました。これ以上の増加率だと増え続けます。



「医療費の将来推計」
(一般の増加率が年-1%,高齢者の増加率が年-1.4%の場合)

この値(一般-1%,高齢者-1.4%)は医療制度改革が行われた2006年度の一人当たり医療費増加率です。(というか抑制ですが)
この医療費抑制策を今後も強行すると、こんな風になるんですね。すごいですね。ペンペン草も生えないっていうんでしょうか、こういうのを。



「医療費の将来推計」
(一般の増加率が年0.9%,高齢者の増加率が年1.1%の場合)

この値(一般0.9%,高齢者1.1%)は2003〜2005年度の平均値です。これだと、医療費は2065年頃の63兆円をピークにその後は減少するようです。


これらでわかることは、少なくとも今後数十年は、医療費増加は避けられないということです。医療費を減らすには、一人当たりの医療費を無理矢理削るしかありませんが、それは医療崩壊をさらに加速させるでしょう。
また、どのグラフでも、高齢者の医療費が8〜9割を占めます。ということは、始まったばかりの「後期高齢者医療制度」は、間違いなく、今後の医療保険制度の主役だということです。
そうなった時、医療保険制度はどうなっているでしょう。今は、後期高齢者医療費の4割を一般保険者が負担していますが、制度維持のためにさらに増える可能性はないでしょうか。そのとき、勤労者は黙っているでしょうか。
高齢者も、今の保険料は後期高齢者医療費の1割ですが、医療費自体が増えるので 1割といっても金額は増えます。それでも足りなければ2割、3割と増える可能性はないでしょうか。窓口負担金が増えないという保証だってありません。本当に医療が保てるのかわからなくなります。

すごく簡単な試算なので、多分、医療統計の専門家から笑われそうな内容だと思います。もっと信頼性の高い資料が欲しいです。

ただ、今回、グラフで遊んでいて、改めて、わざわざ保険制度を分離しなくても、持続可能な医療制度や医療費のコントロールは可能だと思いました。医療保険を、74歳以下と75歳以上に分離する必然性が全然見えてこないんですよね。むしろ、医療制度が一本化していたほうが、問題が生じた場合も対処し易いと思うのですが。財源の話ばかりでなく、厚労省は、医療のグランドデザインを示してくれませんかね。提供できる医療レベルとコストが分からなければ、妥当かどうかの判断もできません。

国民健康保険、政府管掌保険、共済組合、組合健保etcとややこやしい公的医療保険は一本化の目途は一向につかず、さらに後期高齢者医療制度が加わり、ますます制度が複雑化して行きます。

医療制度が複雑になったときに雇用や利権が生まれるのはどういう職種か、と考えるとなんとも気鬱で仕方ありません。

2 コメント:

欧州の消化器科 さんのコメント...

以前に取り上げていただいてありがとうございました。老人医療費は膨大になるのですが、例えば若者も失業者もどんどん介護、医療に従事させてみてはどうでしょうか。老人に使われる医療費の大部分は世のため、人のためになり内需を潤し、日本国内でお金が循環する、お金の0エミッション社会になり、みんなハッピーになれる気がしてます。スウェーデンはそんな感じです。国民の半分以上が公務員という状況です(医療職も含まれます)。みんなで公務員にぶら下がっている感じ。お金を日本国内の循環で完結させたくない外圧があるのだと思ってます。

維谷秋哉(これたに しゅうや) さんのコメント...

欧州の消化器科様。
拙の辺境ブログにコメントいただき恐縮です。いつも貴重な海外医事情を有り難うございます。
ちょうど、大村昭人先生の「医療立国論」を読了したところです。借用すると「道路を造れば経済が良くなって、医療をすれば逆にマイナス、負債になって重荷になるというのは時代錯誤の間違った議論」であると。同感です。
介護士が、介護士の給料で十分食っていけて、仕事に誇りを持てる、そんな社会になって欲しいと思います。