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2008年12月8日月曜日

お手本医療記事

ひさびさに、朝日新聞らしい医療記事を読んだので、ちょっとご紹介。医療記事は、こういう風に書くもんだ、という主張が聞こえてきそうな気がします。

機長、空から主治医に連絡 救急隊連携、急病女性救う

先月中旬、アムステルダム発関西空港行きの旅客機の中で乗客が激しい腹痛を訴え、操縦中の機長がこの乗客のかかりつけの医師に電話連絡し、空港で待っていた救急隊員と医師が連携して無事に病院まで搬送された。一度は病院に受け入れを断られた大阪府泉佐野市消防本部は「腹痛の原因が持病の急変であることがわかり、スムーズに搬送先を選べた」と話している。

 救急搬送に立ち会ったのは、奈良県生駒市の開業医、山上和寿さん(52)。11月18日午前8時10分ごろ、中国上空を飛行中のKLMオランダ航空の機長から、50代の女性が機内で痛みを訴えていると、山上医師の携帯電話に連絡が入った。女性は持病や山上医師の連絡先が書かれたカードを持ち、機内に乗り合わせた日本人の医師と看護師から痛み止めなどの応急的な治療を受けていたという。

 山上医師はこの日、自分の医院での診療があったが、診察を待っていたほかの患者の了承を得たうえ、関空に向かった。関空で泉佐野市消防本部の救急隊に病状について説明し、対応が可能な病院なども助言。泉佐野市内の基幹病院からは「態勢が整っていない」と受け入れを断られたが、同市内の救命救急センターに搬送された。

 山上医師は「患者のたらい回しや医師不足が問題になっているが、足りないのは患者を救おうとする意識。互いの連携の重要性を改めて感じた」と話していた。現在、女性は退院して快方に向かっているという。(坪倉由佳子)
(2008年12月7日 朝日新聞)

航空機内で急病人が出たが、たまたま乗り合わせた医師・看護師や、患者の主治医、救急隊、医療施設らが各々尽力した結果、幸運にも大事に至らずに済んだ、という事例のようです。
尽力した方々に敬意を表しこそすれ、難癖をつけるような事例ではないと思うのですが、朝日フィルターを通すと、こんな記事になるんですねえ。

深刻な救急医療崩壊が指摘される大阪(まあ、大阪だけではないですが)で、2つめの病院で受け入れが決まったというのは、むしろ上出来だと思います。それでも「受け入れを断られた」という一言を忘れません。それも、二度繰り返すという念の入れよう。

さすがに受け入れ拒否が1病院だけでは、「たらい回し」とは言いにくいのでしょう。そこで、山上医師に「たらい回し」と言わせています。さらに、同医師に、「医療問題の原因は、医師の根性不足」ともとれる発言をさせて、医療者を背中から撃たせるという巧妙さ。



ところで、文中の「泉佐野市内の基幹病院」「同市内の救命救急センター」がどこかはわかりませんが、過去記事にこんなのがあります。

内科・外科の救急告示を取り下げへ 市立泉佐野病院

 大阪府泉佐野市は6月から、市立泉佐野病院(348床)で内科、外科の「救急告示」を取り下げ、夜間・休日の時間外診療を当面休止する方針を決めた。内科は救急車による搬送も原則として受け付けない。勤務医の減少が止まらず、軽症の救急患者が増え続ける中、医師の負担が重い時間外診療は不可能と判断した。

 市によると、同病院では大阪市立大が派遣した消化器内科の医師7人が昨年3月末に一斉に引き揚げられるなど、内科医不足が深刻化。今年6月末には、さらに2人が退職して計9人になり、昨年3月時点の半分以下になる見通しだ。このため、6月1日から内科系疾患の時間外診療を原則としてやめる方針を固め、市議会に伝えた。府が一定の基準で認定する「救急告示病院」の看板返上も申し出た。

(中略)

 同市以南の府南部では、生命に重大な危険がある患者に対応する府立泉州救命救急センター(同市)を除き、内科の救急病院がゼロになる。同市消防本部は07年、全体の半数近い約2500人を泉佐野病院に搬送し、約370人が入院した。市幹部は「市民への影響は避けられないが、内科医の負担が増し、全員が辞職することになれば病院自体が崩壊しかねない」と話す。(加戸靖史)
(2008年05月01日 朝日新聞)

記事の出典は・・・「朝日新聞」(爆)。
基幹病院がもともと「救急受け入れ不能」だって知ったうえで、今回の記事を書いてますね、多分。
今回に限って「受け入れ拒否」した病院名をぼかしたのは、こういう裏事情があったんでしょう。

なかなか、報道メディアの意図というか主張が汲み易い、見本のような記事だと感じました。
医療事故でもなんでもない事例を、ここまで昇華させる筆致はさすがです。
もちろん、誉めている訳ではないですが。

ところで・・・。
政府は「ITで医療を効率化」と呪文のように言ってますが、診療のために、生駒市から関空まで主治医が移動(乗り換え案内によると、所要時間は電車で約1時間半です)せざるを得ないような救急医療のどこに、ITが役立ったのでしょう?
ひょっとして、連絡に携帯電話を使ったところとか?(笑)

2008年12月2日火曜日

これって勤務医支援策?

 診療報酬の点数や加算要件をいじることで医療を自らの望む方向へ誘導しようとするのは、厚労省の常套手段です。大抵、医療施設側に備える猶予はほとんどなく、次年度からいきなり実施されるので、当事者にはたまったものではないのですが、当事者以外には、滑稽に見えるかもしれません。といっても、受診者だって、広い意味では当事者ですから、他人ごとではないのですが。
救急病院が大幅減収、医療崩壊に拍車

 今年4月の診療報酬改定で、「入院時医学管理加算」の要件が厳しくなったため、地域の救急医療を担ってきた医療機関の多くが同加算を算定できなくなっている。同加算の算定を継続できない場合、中核病院(300床規模)では、減収額が年間3000万-3500万円に上るとみられている。今回の改定で厚生労働省は「病院勤務医の支援」を打ち出したが、全日本民主医療機関連合会(全日本民医連)などは「減収によって勤務医の過重労働は軽減されず、地域の救急医療体制の崩壊にも拍車を掛けている。新たな算定要件は早急に見直すべき」と訴えている。

(中略)
厚労省は当初、新たな要件を盛り込んでも150-170の病院が届け出ると見込んでいたが、88病院(7月1日現在)にとどまっていることが、小池晃参院議員(共産)の国会質問で明らかになっている

(中略)
 小池議員はこのほど、質問主意書を提出し、新たな要件の見直しなどを求めたが、政府は答弁書で「新たな加算を算定できないことだけで、勤務医の過重労働に拍車が掛かるとは考えておらず、見直すことも考えていない」との見解を示している。
(2008年11月28日 CBニュース)


 ほんの数年前まで、救急医療を担う医療施設には、種々の加算がありました。例えば、こんなのです。
  • 紹介外来加算
  • 紹介外来特別加算
  • 急性期入院加算
  • 急性期特定入院加算
 これらの加算は、紹介率(=[紹介患者数+救急車の台数]/初診患者数)を要件としていたので、他の医療施設からの紹介や救急車の受け入れが多い施設、つまりは、地域の救急や二次・三次医療を支えているような基幹病院が対象でした。
救急を維持するのに必要な人件費、設備投資、エネルギーコストを賄うには十分ではないにしても、頑張るところには、それなりの評価をする、という面で、収益だけでなく地域病院のモチベーションも支えていたと思います。
 ですが、これが、平成18年4月の診療報酬改定で、なんと全廃になりました。
 努力して加算認定基準をクリアした病院は、さぞかしガッカリしたことでしょう。
 この年の診療報酬改定では、診療報酬自体がマイナス3.16%という大幅引き下げでしたから、救急病院にとっては、コロニー落とし並の大ダメージだったと思います。「救急は赤字」と言われる所以です。


 で、そういう前フリがあっての、今回の「入院時医学管理加算」の要件変更。
原本は、ここにありました。
中医協「平成20年度診療報酬改定における 主要改定項目について(案)」の16ページです。
本当に、「地域で中核となる病院に勤務する医師の負担軽減の評価」ってありますね。勤務医の負担軽減が目的なんだそうです。

で、その算定要件の詳細はこんな感じ。
1 特定機能病院・専門病院入院基本料を算定する病院以外の病院であること

2 急性期医療を行うにつき十分な体制が整備されていること
(1) 産科、小児科、内科、整形外科及び脳神経外科に係る入院医療を提供していること
(2) 精神科による24時間対応が可能な体制が取られていること

3 病院勤務医の負担の軽減に資する体制が整備されていること
(1) 外来診療を縮小するための体制を確保していること
(2) 病院勤務医の負担の軽減に資する計画(例:医師・看護師等の業務分担、医師に対する医師事務作業補助体制、地域医療機関との連携体制、外来縮小計画等)を策定し、職員等に対して周知していること
(3) 特別な関係にある医療機関での勤務時間も含めて、勤務医の勤務時間を把握するとともに、勤務医負担の軽減及び医療安全の向上に資するための計画を策定し、職員等に対して周知していること(例:連続当直は行わないシフトを組むこと、当直後の通常勤務について配慮すること等)

4 急性期医療に係る実績を相当程度有していること
 入院患者のうち、全身麻酔件数が年800件以上であること 等
※ 既存の入院時医学管理加算の要件は廃止する
ハードル高っ!
 もう、これは、「救急医療から撤退しなさい」という婉曲的メッセージなのかもしれません。
救急をやめれば、確かに病院勤務医の負担は減るでしょうけどねえ。そういう意味での支援策なんでしょうか。

ただ、地域医療支援病院の認定を受けている施設にとっては、

救急やめる
=>認定加算無くなる
=>収益悪化
=>病院無くなる

かもしれないので、タイミングが難しいでしょうね。